2017.04.10更新

平成29年4月10日

皆様本日は御入学誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。
桜花爛漫と咲き誇り、神戸の背景を彩る緑の山々は春霞の彼方に煙り、大輪田の泊りは春光に満ち満ちて明日への希望の輝きを放つ、
パステルで彩られた淡い水色の大空に包まれた学びの園からは、兵工賛歌が聞こえてくるようなこの佳き日に、新入生の皆さんの御入学を改めてお慶び申し上げます。
今日迄御父兄の皆様方に於かれましては大変御苦労様でした。皆様方は立派に御子息を御養育されました。御子息が百有余年の歴史ある県工に入学された事は紛れもなく、その事実を物語っております。
私は平成23年度より兵庫工業倶楽部理事長を仰せ付かっております高校18回化学科を昭和41年に卒業した冨金原伸伍でございます。我が「県工」は明治35年11月、兵庫県立工業高校として建築、機械の2学科、生徒数65名をもって開校致しました。その後明治42年電気科、大正6年応用化学科、大正10年土木科、戦後は学制改革により現在の兵庫県立兵庫工業高等学校となりました。更に時代の変遷に対応するべく、昭和33年デザイン科、34年電子科、62年には情報技術科を新設し現在では8学科を有する全国でも有数の工業高校として発展して参りました。
又、兵庫工業倶楽部は母校の発展と共に卒業者総数は34,399名からなる大同窓会であります。組織的には8つの各科別同窓会、10の地方支部、多数の勤務先兵工会が存在しております。このように114年の伝統と歴史に支えられた兵庫工業倶楽部同窓会に、三年後、今日御入学された320名の方々が全員御入会頂ける事を心より嬉しく心強く思っております。

今日御入学された皆さんは、只今県工という土俵に上がり同じスタートラインに立っているわけですが、その思いは十人十色と言われるように各人各様の思いがあろうかと思います。
入学時より卒業までの3年間を見据えてその過ごし方を鮮明に描き、その夢の実現の為に入学した者、又、何の方向性も目的も無く、況や着地点をイメージする事もなく、唯成り行きに身を任せて入学した者、其れ其れである事でしょう。然し、入学の動機は如何にあろうとも、今ここに輝かしい伝統と誇り高き歴史を有する県工という土俵に上がった事実があります。望むと望まざるとを問わずこの素晴らしい土俵に上がっている偶然にして必然の事実を認め、稀なる天与のチャンスが与えられた訳ですから見逃す手はありません。
この素晴らしい土俵で3年間見事な相撲を取って欲しく思います。
 学校は貴方方に全てを教える事は出来ません。又、皆さん方も全てを学ぶ事は不可能でしょう。要するに学校で学ぶ事は基礎の基礎であり、物事の本質を見極める事を学ぶのであります。この基礎を学ぶに当っては細心の注意を払って、微塵も疎かにしてはなりません。堅牢無比なる土台さえ築いておけば、後はその上に如何なる構築物をも自由自在に築くことが出来るでしょう。
学校での3年間は光陰矢の如しで、あっという間の出来事として過ぎ去って行く事でしょう。一所懸命に穿ち込めば穿ち込む程に、一心不乱になればなる程に、無心になればなる程に、一つの事に一途になればなる程に時間の認識が薄れていき、一瞬の内に3年間は終わって仕舞う事でしょう。
一瞬々々の中に心魂を込めて、有限の時間を無限大に活用し挑んで行って欲しく思います。
この事実は貴方方銘銘の歴史の中に克明に刻まれ、貴方方を生涯決して裏切らない事でしょう。これ等は全て財産として体躯と共にあり、四六時中、何時でも何処でも一生涯貴方と共にあり続け、バイタリティーの源泉となる事でしょう。学生時代に得た多くの体験と知の底辺は広大無辺に広がり、その上に築かれるものは無限大の高さを誇るピラミッドになる事でしょう。
誰にも侵されない、誰にも奪われない鉄壁のピラミッドは終生貴方と共に有ります。
水面に浮かぶ浮草は幾ら繁茂しても幾ら栄華を誇ってみても、一陣の風に敢え無く吹き飛ばされて跡形もなくなる事でしょう。
この世を浮世とはよく言ったもので、浮草の様に浮いているという意味があります。
浮いた世の中で浮草の様に流されない為には、一本の根を何処迄も伸ばし続け、池底に穿ち込み根を張る蓮の様になるしかありません。
流行りや廃りに目を奪われず、些細な事に一喜一憂せずに大地に根を下ろし、風が吹こうと嵐が来ようと、何の様な天変地異が起ころうとも、微動だにせず悠然と屹立して居ようではありませんか。
何処で咲こうと朽ちようと、泰然自若として居ようではありませんか。
江戸時代末期の僧 釋月性の詩に「人間到る処青山あり」と詠まれております。人は何処で死んでも青山即ち墳墓の地とする所はある。故郷を出て大いに活躍すべきであるとの意であります。
卒業してからではなく、今からこのような気概をもって挑んで欲しく思います。
 前述した事の全ては、今日から始まる県工での過ごし方一つに掛かっていると云っても過言ではありません。
これらの事を唐人の寝言として聞き流すのではなく、一顧して肝に銘ずべきであり、此の様な学生生活を過ごした貴方々は我々同窓の誇りであり、貴方の家族の栄であり、国の宝であります。
此の様な国民で満ち溢れる日本国は如何なる艱難辛苦が襲い掛かるとも、金城湯池の国として永遠不滅を約束されるでしょう。
貴方方と共に我々3万4千有余名の卒業生がおります。我々が築き上げてきたものの全てを後輩である貴方々に引き継ぎをする為にも、この3年間を有意義に過ごして頂きたく思います。
今日この場に於いて、私の思いの一端を永永と吐露させて頂きました。これをもちまして私からの御入学の祝辞に変えさせて頂きます。本日は御入学誠におめでとうございます。

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